前回は、スノーボードと身長の関係性について書きました。
今回は、高身長の特徴の中にあった「力を与えやすい」、要は「板がたわみやすい」理由について書いています。
なお、筆者が調べた中で考え得る可能性として書かせていただきました。
そのため、筆者の持論であることを頭に入れて読んでいただけますと幸いです。
今回もカービングをメインに考えてた内容になっています。
スノーボードのカービングでたわみを生み出すのに様々な力が働いている
筆者は、スノーボードのカービングという種目には、身長によって板に与える力の大きさに違いがあると考えています。
この理由をお伝えする前に、まずスノーボードのカービングにおいて、「どのような力が作用するのか」をざっくりとお伝えしていきましょう。
・ターンにおける円運動
・摩擦力や空気抵抗、雪面抗力などの抵抗
・筋力や関節の動きによる内力
・体軸や重心位置の移動による回転動作
もっと細かく考えていくと、上記以外にも様々な原理や力が働くと言えます。
それも単体ではなく、複合的にです。
そのため、全てを踏まえて簡単に力の関係を考えることは、とても難しいことだと言えるのです。
ということで、全てのことをまとめてお伝えするのはとても難しいので、上記のうち一部にのみ焦点を当てて書かせていただきます。
今回は、身長と力(板のたわみ)の関係ということで、「回転」のキーワードを中心に考えていきます。
3つの軸から紐解く!スノーボードのカービングにおける回転運動
スノーボードのカービングにおいて「回転」による運動は、とても深く関わってくることだと考えています。
この回転運動を考える際に使えるのが、「ロール」「ピッチ」「ヨー」という言葉です。
自動車や航空機などで使われていることの多い物理的な専門用語で、「3次元的に見た回転の動き」を表すときに使われるとされています。
「ロール・ピッチ・ヨー」には、それぞれに軸が存在し、その軸に沿った回転が行われます。
ここでは「x(ロール)」「y(ピッチ)」「z(ヨー)」の軸で説明します。
この軸に動きが出やすい「飛行機」と、「スノーボード」を当てはめて3つの回転運動を説明します。
※右側は「板」中心の軸にしています。
しかし、板は自立して動くことができないため、人が操作して動かしていることとします。
※スノーボードを人が動かすときは「体の傾き」を活用
※スノーボードを人が動かすときは、「前後の重心移動」を活用
※スノーボードを人が動かすときは、「ひねりの動作」を活用
カービングでは、この「ロール・ピッチ・ヨー」の3つの回転運動を組み合わせて使っています。
※カービングに限らず、グラトリなどにも応用できる考えだと思っています。
そして、動かす順番や回転方向次第で効果が変わることもあるため、色んな組み合わせを試してみることで、滑りの質を変化させることも可能と言えるでしょう。
このロール・ピッチ・ヨーの回転運動が、スノーボードにおける高身長と板のたわみの関係に繋がると考えています。
高身長のほうがカービングで大きな力をかけられる(板がたわみやすい)理由
先程、スノーボードのカービングにおいて「ロール・ピッチ・ヨー」について概要をお伝えしました。
このうち「ロール」と「ピッチ」の動きが、力のかかり方に関係してくると考えています。
その理由をお伝えします。
高身長のほうが力がかかりやすい(板がたわみやすい)と考えている理由は、「力のモーメント」という力学的なところから持ってきています。
力のモーメントとは、
力のモーメント(ちからのモーメント、英語: moment of force)とは、力学において、物体に回転を生じさせるような力の性質を表す量である。
とされている物理の世界で使われる言葉で、テコの原理などにも用いられています。
上記とは違う言い方をしますと、「軸の周りにかかる回転させる能力の大きさ」のことです。
ただ、力のモーメントよりも「トルク」と言ったほうがイメージしやすいと思いますので、ここからはトルクで話を進めていきます。
トルクレンチをイメージしてみましょう。
トルクは、「距離(r)×持ち手にかける力(F)=トルク:軸の周りにかかる回転させる能力(T)」という計算になります。
これをスノーボードに置き換えてみましょう。
下記の画をご覧ください。
スノーボードの「ロール(体の傾き)」「ピッチ(前後の重心移動)」を想定して半径を書いた画です。
※体の重さの位置を総合的に考えて「重心」を中心に半径を書いてます。
上記の画でもわかるとおり、高身長のほうが重心までの距離(緑線)が長くなるため、「同じ力」で動いた場合、「回転させる能力は大きくなる」ということが考えられます。
さらに体重も重ければ、それだけ「力」も大きくなる可能性があります。
ただ、ここでの話は、「速度」「体の動き」「力のかける方向」を考慮していない簡易的な考えです。
身長が低くても、「速度」「体の動かし方」「力のかける方向」次第では、大きめの力を板にかけられる可能性はあると言えるでしょう。
とりあえず高身長のトルクに関してまとめると、
ということです。
なお、板がたわみやすい理由に関しては、このトルクだけではなく、他の理由のほうが大きいと考えています。
その理由を次に説明していきます。
カービングでロールを止めることが板のたわみを起こす
先程は、スノーボードのカービングにおいて、高身長の方がトルクが大きくなるということをお伝えしました。
そして、回転の性質により「トルク」の他に、「慣性モーメント」という働きが起きます。
慣性のモーメントとは、「回転速度の変化のしにくさ」を表したものです。
違う言い方をしますと、「回転の始まりにくさ」と「回転の止めにくさ」です。
質量や半径が、小さいほど「慣性モーメントが小さく(回転が始まりやすく)」、大きいほど「慣性モーメントが大きく(回転を止めにくく)」なります。
この慣性モーメントのことも考慮すると、さらに板がたわむ理由が考えられます。
※身長だけではなく、「体重が重たい場合」も板のたわみに大きく関係してくると考えています。
ここからは、カービングの「体を傾けてロールする(板を立てる)場面」を想定して説明していきましょう。
高身長の方が、速くかつ雪面側に近づくように傾こうとしたら、板に大きなトルク(回転させる能力)が働きます。
そのため、回転能力が大きくなると同時に、回転も止めにくくなります。
そして、この止めにくくなっているものを、急激に止めるわけです。
■高回転の物体を、超人が止めようとしている画
※画は、高回転のものを止めようとしているイメージです。
この画をスノーボードのカービングに変換します。
厳密には違いますが、高回転のものを「傾いた人」だとして、超人を「板」だとしましょう。
板は、傾いた人を止めるために、雪面に板をエッジグリップさせて「回転を止める」わけです。
※実際には板だけではなく、体(筋力)も使って回転を止めようとしていると思われます。
そして、板のノーズとテールの一番太いところが雪面に引っかかり、くぼみのあるウエスト部がたわんでいくという考えです。
※実際には、「滑走速度」や「減速(マイナスの加速)による慣性力」なども大きな要素になってくるかと思います。
上記のことから
「身長が高いほど大きな回転を止めることになるため、板がたわみやすい」
と考えられるわけです。
しかし、力が伝わりやすい反面、一時的に減速しやすくなる傾向もあると言えるでしょう。
これらを考慮して、「板の硬さや性能」、「重心移動など滑り方」を考えてみると、今までと違う滑りができるかもしれません。
また、滑り方次第では、一時的に減速したとしても、たわみを利用した反発で加速も可能でしょう。
スノーボードのプレートの効果!高身長と同様の効果がある?
ここまで高身長の方は、カービングで板に力を加えやすい(板がたわみやすい)理由についてお伝えしてきましたね。
ここまで読むと「身長がそこまで高くない方は、高さを利用できないではないか」と考える方も中にはいるかもしれません。
人間の特性として、残念ながら成長しきると身長は基本的に変えることのできない部分です。
しかし、限度はあるものの「高さ」を上げることができるアイテムはあります。
それが、スノーボードの「プレート」というものです。
画像引用:T-PLATE JAPAN
プレートを簡単に説明しますと、バインディングと板の間に挟むことで高さを上げるものです。
そして、メーカーごとに素材や形状にこだわることで、それぞれの特性を出しています。
ここでは、プレート全般に言える効果をお話ししておきましょう。
スノーボードのプレートのメリット
プレートの厚みは、メーカーによって異なりますが「10mm」以上の高さを上げることができます。
たった10mmと思うかもしれませんが、これが結構な違いを与えてくれます。
それでは、メリットからお伝えしていきましょう。
この記事で何度も、「高身長の方はトルクが大きくなりやすい」とお伝えしましたね。
これと同様に、高さが出ることで普段よりもトルクが大きくしやすくなります。
トルクが大きくなるということは、軸(エッジ)の周りにかかる回転させる能力が大きくなるので、エッジが雪面に食い込みやすくなる、いわゆるエッジグリップが強くなりやすい、と言えるのです。
これも高身長の特徴と同様です。
高さを上げることで、大きなトルクが働きやすくなります。
この回転を止めることになるので、板をたわませやすくなると言えるでしょう。
スノーボードのプレートのデメリット
プレート全般に言えるメリットをお伝えしましたが、その反面、デメリットも考えられます。
プレートを使うとトルクが大きくなるため、平地で考えれば少ない力で傾きやすいとも言えます。
しかし、スノーボードのカービングで考えますと、傾いてターンをしていきますので「傾いた体を起こして次のターン方向へ体を傾ける」必要があります。
そして、通常であれば傾いた体を起こす行為は、非日常の動作ということもあり、大変な動きと言えるでしょう。
さらに、高さがあるとより大きな力が必要になるので、人によっては切り替えがしづらく感じることがあるのです。
高さが出るということは、トルクも大きくなり、それを止めるために板に大きな力がかかるとお伝えしましたね。
大きな力を板にかけるということは、一時的に減速することもあると言えます。
このようなデメリットもありますが、滑り方次第で緩和できる可能性は十分にあります。
まとめ
今回の内容は、いつにも増して難しい内容になってしまいました。
簡単にお伝えしますと、高身長だと「エッジグリップがしやすく」「板をたわませやすい」ということです。
その分、「傾きや切り替えに時間がかかりやすい」「無駄に力がかかることもある」というデメリットもありますので、特徴をどのように活かすかは、その人次第と言わざるおえないところでしょう。
そして、カービングにおいては高身長のほうが、姿勢の粗も出やすいのが難点ですね。
各体のパーツが長くなる傾向にあるため、「隙間」「挙動」が大きくなりやすく、粗が見えやすいのです。
このように身長に関しては、メリットもデメリットもあります。
これらの特徴を頭に入れておくと、他の人にできない滑りができるかもしれませんよ。
また、もし今より力をかけた滑りがしたければ、スノーボードのプレートを活用してみるのも一つの方法です。
なお、今回の内容に関しては、同じ滑り方をしたと仮定した場合の話です。
当然、板のロール角(角付け量)や重心位置、滑り方によってもたわみ方が異なるため、人によって感じ方は変わると考えています。
参考文献:
Wikipedia ローリング
Wikipedia ピッチング
Wikipedia ヨーイング
WEB CARTOP 【今さら聞けない】クルマの「ロール」「ピッチ」「ヨー」って何 ?
Wikipedia トルク
KTC トルクレンチとは?
わかりやすい高校物理の部屋 力のモーメント
物理学解体新書 慣性モーメント
国立大学56工学系学部ホームページ 「回転のしにくさ・止めにくさ」を見てみよう
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